婦人科外来で診療を行っていると、もっと早くに受診してくださればよかったのにと思うことがあります。 受診に至らなかった理由を患者さん本人に尋ねると「婦人科は受診しづらいから」「異常だとは思っていなかったから」と返されます。婦人科は体のデリケートな部位を診察するので、受診を躊躇しがちです。また、間違った認識のために症状を見過ごすことがあります。 早期に受診していれば適切な治療に結びつきますが、受診の機会を逸すると症状や病状が悪化し、人生を左右することがあります。
月経前症候群(以下、PMS)を例に挙げます。
PMSは月経開始の3~10日前から始まる症状(下腹部痛、下腹部膨満感、腰痛、いらいら、怒りっぽい、頭重感、乳房痛、抑うつ等)で、月経開始とともに減退・消失します。このような症状は月経を有する女性には当然認められるものと考え、 症状が強くても婦人科外来を受診なさいません。症状によっては日常生活に支障をきたし、さらには学業や対人関係にも影響を与えます。
PMSは適切な治療で症状を改善することが可能です。体が発する症状を見過ごさず、勇気を出して外来を受診することが適切な治療につながります。
受診のきっかけとしていただきたい症状
婦人科受診のきっかけとしていただきたい症状を取り上げましたので、参考になさってください。
症状① 月経痛が強い、月経量が多い
症状② 不正性器出血
症状③ 腹部膨満感
症状④ おりものが多い、外陰部がかゆい、外陰部が痛い
症状⑤ 閉経前後の体調不良
症状① 月経痛が強い、月経量が多い
月経に随伴して生じる病的な症状(下腹部痛、腹部膨満感、頭痛、疲労・脱力感、いらいら、下痢、気持ちの落ち込み等)で、 日常生活に支障来す場合には月経困難症と考えられます。
月経困難症には原因となる疾患を認めない機能性月経困難症と、 原因となる疾患(子宮筋腫や子宮内膜症)を認める器質性月経困難症の2つに分かれます。
機能性月経困難症はホルモン剤や漢方の内服、鎮痛剤の使用で改善します。 一方、器質性月経困難症は、疾患や病状に応じて、ホルモン療法および手術療法を組み合わせて治療を行う必要があります。器質性月経困難症の原因となる子宮内膜症は不妊症の原因となりますので、 痛みを我慢せずに医療機関を受診しましょう。
症状② 不正性器出血
月経期以外の出血に加え、月経期間が長い(過長月経)場合も含みます。
原因の多くは子宮頸管・内膜ポリープやホルモンバランスの異常、萎縮性腟炎などの良性疾患ですが、 婦人科悪性腫瘍(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣癌など)を否定する必要があります。子宮頸がんは若年層に多い疾患ですが、年齢を重ねてから発症することもあります。また、子宮体がんや卵巣がんは中高年に多い疾患です。「閉経前後の不正出血はよくあることだから」、「もういい歳だから婦人科にはご縁はないわ」という考えは危険です。
また、妊娠可能年齢の場合には流産や異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性があります。
症状③ 腹部膨満感
「最近、お腹回りが少し太った」、「スカートのウエストがきつくなってきた」などの自覚症状を認めるときは、子宮腫瘍や卵巣腫瘍を疑います。多くの場合、子宮筋腫や良性卵巣腫瘍ですが、稀に子宮肉腫(悪性腫瘍)や卵巣癌が発見されることがあります。閉経後は体質が変化し体重が増加しがちですが、急激に症状が増悪するときには婦人科受診を検討ください。
症状④ おりものが多い、外陰部がかゆい、外陰部が痛い
おりものは医学的には帯下といいます。帯下が多い時や外陰部にかゆみを伴う時には性感染症(以下、STI)の可能性があります。感染者が増加しているクラミジアや淋菌は帯下の増加以外に症状がほとんどありません。治療が遅れると、子宮や卵巣の周囲に癒着を生じ、不妊症の原因となります。尖圭コンジローマは外陰部にカリフラワー状の腫瘤が出現するウイルス感染症ですが、掻痒感を自覚することがあります。
梅毒は近年感染者数が急増しています。感染後まもなく外陰部の潰瘍を認め、全身の発疹やリンパ節の腫大を認めます。
症状⑤ 閉経前後の体調不良
閉経とは永久的に月経が発来しなくなることを指し、閉経の前後5年間を合わせた10年間を更年期と定義します。 更年期には卵巣機能が低下し、女性ホルモンが減少するため、 自律神経に異常をきたします。症状の種類や程度は様々ですが、一般的にのぼせ、異常発汗、めまい、頭重感、倦怠感、肩こり、いらいら、不眠、不安、抑うつ症状が出現します。症状が強く、日常生活に支障をきたす場合には受診をお勧めします。生活習慣の見直し、漢方治療やホルモン補充療法を開始することで、症状を軽減できます。